母の心配
先日、母を見舞った時、看護師さんがこんなことを言っていた。
「最近、夜もあまり眠れないようなんですよ。心配後事があるようです。家族には
言わないでほしいそうですが。」
ええっー。母が心配している。
そんなことは今まで一度もなかった。
母は心配をしない人であった。
どちらかというと心配性の私が、子供のことなどを心配していても。
「心配なんかしてもしょうがないやろ。
例えば、骨折したとしよ
その折れたところを見て、心配や心配やといったところで
ちっとも治らんやろ。心配なんかせんと、ちゃんと手当や治療をせんと。
それとおんなじや、心配したらあかん。心配するのが一番悪いんや。
大丈夫やから、心配なんかせんとき。」
というのが常であった。
母のこの「大丈夫やから、」に何度助けられたことか。
その母が今頃いったい、何の心配をしているのだろう。
仕事を辞めてしまった娘の生活か、一向に彼女もつれてこない孫息子の結婚か、
いったい何だろうと気になって、母のいないところで看護師さんに訪ねた。
「おかあさんは、自分の葬式のことを心配しているらしいです。」
葬式のこととは意外であったが、聞いて少し涙がでた。
母のことだから、いつまでも頼りない娘や孫たちが、自分の葬式で困らないか、
葬式を上げるお金はあるのか、
きっと、そんなことを心配しているのだろう。
「葬式のことは心配ないよ。」と伝えてあげたいけれど、何となく言いにくいな、
と目下、どうやって安心させようかと思案中である。
そして、また一つ、母から学んだ。
動けなくなってから心配しなくてよいように、身体の動くうちに自分の葬式の段取りをきちんと決めておくこと。