ただ一つ、親ができること
大学の卒業前に引きこもってしまって、4年も5年も自宅から出なかった知り合いの息子さんが、何と最近一人で渡米されたらしい。詳しいことは聞かなかったが、自分で計画をたてて、しばらくアメリカで暮らすという。
「よかったですね。」とは言ったものの、親御さんにとっても勇気のいる選択だったろう。
「自分で決めたことやし、好きな生き方をさせてやるほうがええやろ。」
普段は冗談ばかり言っている父親が、珍しく真顔で話していた。
「何も思わんようにしてんねん。アメリカで銃で撃たれそうになっても、助けてやれやんのやから、いくら何を思ってもしょうないし、」
父親はもとより、母親の気持ちはいかばかりであろうか。国内でも離れて暮らしている子供のことは、何かと気にかかるものである。
昔、尊敬する多田道夫先生が、ご自分のご子息のことを、「苦労の種です、」とおっしゃっていたことがあった。あんなに立派な人でも、そんなことを思われるのだな、と。その時は妙に納得した。
親になるということは、まるで修行だ。
親にできることはもう、ただ一つ、祈ることだけである。
アメリカへ飛び立った息子さんを持つ知人夫妻も、きっと、いつも子供の無事を祈り続けているのだろう。
どうぞ、その祈りが届きますように。