想い鳥日記(omoidori`s diary)

日々のつれづれを心のままに、想い人に捧ぐ

パリの思い出

f:id:omoidori5:20150323223911j:plain

夏の終わりに一人でパリに行った。

飛行機とホテルはJTBに頼んだが、

あとはすべて自由行動の一人旅である。

ルーブル美術館にほど近い隠れ家的な小さなホテルに泊まった。

 

夜10時を過ぎていただろうか。

突然電話が鳴った。

「アロー」と答えてしまったためか、いきなりフランス語で早口で

まくしたてられたのだが、何分こちらは超基礎文法を終えた程度の

語学力、何を言っているのかさっぱりわからない。

「Je ne parle pas france」とか言って

何とか英語で話してみたのだけれど、電話なので中々

言っていることがわからない。

しばらくして

ドドドドと激しくドアをノックする音が聞こえた。

とにかくドアを開けろということらしい。

 

「ええっ、」こちらは一人で泊まっているのですよ。

いくら早期退職したおばさんとはいえ、パリで夜中に

いきなりホテルのドアを開けろと言われても、やっぱり躊躇しますよね。

 

ぐずぐずしていると、ドアをたたく音は激しくなってくるばかり、

「Just,moment.」「OK」とこれは通じたので

勇気をふり絞ってドアをあけた。

50代の黒人の男性が、大慌てではいってくるとバスルームを

のぞいて何かを点検している。

どうも隣の部屋が水浸しになったので、私にバスルームの水を流しっぱなし

にしているという嫌疑がかかったらしいのだが、そういうことはまったくなく

バスルームを確認し終えると、黒人男性は部屋から出ていった。

 

翌朝になると、私の部屋の床も水が流れてきたのか、びっしょり濡れていた。

パリの水漏れの話はよく聞くけれどやっぱりね。

夕方、外から帰ると

取り替えてくれた部屋には、英語でお詫びの手紙とマカロンがたくさん置かれていた。

昨夜のことを申し訳ないと思ってくれたのだろう。

 

私は、少しも怒ったりしていなかった。

このことはJTBにも、誰にも言っていない。

 幸せな時は、別に何があっても腹が立たないようだ。初めてのパリはそのくらい

私に幸せな時間を与えてくれていた。

そのあと

そのホテルには6泊したのだけれど、翌日から、私の部屋に入ってきた黒人男性と

責任者のようだったフロントにいた白人男性の姿が見えず、他の人に代わっていた。

 

水漏れの責任を問われたのか、夜間に宿泊客の部屋に入った対応の是非を問われたのか、

私は何にも気にしていないのに、どうぞ彼らにお咎めがありませんようにと、今でも

本当に思っている。

これは、

夜勤の黒人男性が、映画に出てくるような渋い素敵な人だった、から

というだけではないのである。